サン&リブのつくりかた 奥田政行× 中山ダイスケ× 稲村和之

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アル・ケッチァーノの店先には『山形代表』だけの自販機[注7]があります。珍しいですね。

奥田

これが1号目です。自販機に山形のジュースがないから、ずっと作りたいと言っていたんです。「山形に来たら山形のジュースを飲んで、その人が山形になって欲しい」と思っています。その土地のものを身体に入れると、仲間入りしたという証になる。アフリカの部族とかもそうでしょう。そうやって山形を堪能してもらいたいですね。

中山

良いですね。駅とかにも置きたいですよね。

奥田

そうそう。お土産屋さんとか、県内に増えていけば良いなと思います。

稲村

最初、レストランの前に自販機を設置したいと言われた時には、「本当に良いの?」とびっくりしました。自販機に対するきちんとした考えを聞いて、「ぜひその話に乗りたい」と思いました。奥田さんの想いが表れているのは、自費で置いたところ。自販機を置くというのは当然コストがかかるわけで、他の人はなかなか踏み込めない。そこまで踏み込んで「自分の想いを伝えよう」というハートをすごく感じました。

奥田

この自販機は、ちょうど父が亡くなった日に来たので日付が入っているんです。

稲村

それを聞いた時は感動したね。運命的。

奥田

想いを伝えたら心で応えてくれた人がいて、実現できました。頭だけで考えたら不可能だったと思います。

稲村

この3人はハートとハートで結ばれているんです。頭だけで話をすると、多分まとまらないね。

中山

おふたりはひらめきが抽象的なんですよ、とにかく(笑)

一同

あっはっは!

中山

もの凄い抽象的なことしか言わないので、どうするかというのはかなり悩みます。おふたりは形のないものを「これだね」と決める役なんでビッと合うんですよ。僕はその感覚をパスされて、それを他の人々にすぐに翻訳しなければならない。その時間がとても早い。でも、最後には後に残っていく良いものができる、おもしろいトリオだと思います。


稲村和之
いなむら・かずゆき。山形食品株式会社代表取締役社長。1953年山形県山辺町生まれ。山形県経済連、JA全農山形を経て、2008年6月代表取締役専務、2010年6月より現職。

注7
『山形代表』だけの自販機アル・ケッチァーノ前に設置された、濃い黄色の自動販売機。売られているのは『山形代表』と『つやひめげんまいちゃ』のみ。山形で山形のものを摂り入れることの重要性を訴える奥田シェフの想いが形になったもの。「買う人が少ないのでは」という稲村社長の予想を裏切り、アル・ケッチァーノを訪れたお客さんが買っていくことも多い。

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奥田シェフ発案の、県産ぶどうのワイン風飲料[注8]をサン&リブで作っているそうですが。

奥田

食事の時に、ワインが飲みたいのにウーロン茶を飲んでいるお客さんがいるんですよ。「車で来たから」と。だから稲村社長に協力して作ってもらいました。ぶどうジュースではなく、ノンアルコールワインにしたかったので、敢えて酒石酸[注9]を入れています。ボトルにもこだわって、注ぐときにポコンポコンと音がするものを選びました。日本酒も注ぐ時の音が良いでしょう。ポコンポコンも味のうちです。

中山

ラベルかわいいな。これどこの建物?

奥田

アル・ケッチァーノ…。

中山

へえ。正面から見るとこんな風に見えるんだ。

奥田

アル・ケッチァーノを横に広げて。

中山

広げ過ぎだよ!

一同

(笑)

稲村

彼の子どものような目がピカピカと光って、この商品が生まれたんですねぇ。

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こういった商品を作るのはサン&リブでは初めてですか?

稲村

そうですね。私たちは大手メーカーが求める味を、山形の材料を使って作るというのは得意ですが、自ら開発製造して販売するのは慣れていません。今回の奥田シェフとの開発では、会社の社員も刺激を受け自分たちが作ったと自信を持って言えるものができ上がりました。今後はさらに技術をレベルアップさせて、もっともっと成長していきたいと思っています。

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今後のサン&リブ商品について教えてください。

注8
県産ぶどうのワイン風飲料
奥田シェフがサン&リブととも に創り上げたノン・アルコール飲料。山形県産ぶどうを100%使用し、ワインのような濃厚なぶどうの旨みを実現。アルコールの苦手な中山教授も、料理と一緒に楽しめる逸品としてお気に入りに。「フィーノビアンコ」、「フィーノロッソ」(各¥1,500)

注9
酒石酸
ぶどう、ワインに多く含まれる有機化合物。「ワインのダイヤモンド」と呼ばれ、ザラメのような結晶となってワインボトルの底に沈んでいることがある。通常は舌触りがよくないため嫌 われるが、ワイン風飲料「フィーノ」では、ワインの風味を醸し出すのに一役買っている。

稲村

庄内特産の庄内柿[注10]です。生産者の方は規格外品を収穫しないケースがあると聞きます。そこで、その柿を使用したもう1人の侍が山形代表入りします。庄内産の柿ジュースです。

中山

デザイン的に、ここに黄色系の果物が加わるのはいいですねぇ。自販機も柿を待っていたかのような配色でしょ? またCM考えないと。今度は香川選手がドルトムントから帰ってきた[注11]ときの記者会見を…。

奥田

画期的ですね!(かっきてき=柿的?)

稲村

(爆笑)

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ブランド米を使った初めての玄米茶『つやひめげんまいちゃ』についてはいかがですか?

奥田

つや姫[注12]を食べながら飲むとおいしいお茶を作ろうと思って、玄米の比率を高めました。おにぎりにしたつや姫と一緒に食べると、口の中でつや姫の香りが上がるのがわかると思います。そのためにあまり苦くしないようにしました。

中山

それをラベルに書いておかないといけませんね。みんな「味が薄かったよ」って言うんです。薄い理由があることが伝わってない。次のCMをやるときに「だから薄いんだー」って言わせようかな。

奥田

このロゴデザインも、いろいろ言われていましたけど海外では受けが良いですよ。

中山

本当のつや姫のロゴですね。ボトルは僕の仕事ですが、お米のロゴは佐野研二郎さんです。あのようにきちんとしたロゴがあるおかげでオフィシャル商品が生み出せるのです。つや姫本品と共に、山形PRの切り込み隊長になって欲しいですね。

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スポーツウォーター『nonde』の売上げ金の一部は、モンテディオ山形の活動資金として支援していますが、今後の展開は?

稲村

モンテディオ山形の運営資金はJリーグ18チーム中最下位です。なんとか当社の商品を通して、モンテディオ山形のチーム強化費を支援しようと企画したのが『nonde』です。ぜひ県民やサポーターみんなが『nonde』を飲んで、モンテディオ山形を応援してくれれば、どんどんチームが豊かになる。ベッカム[注13]のようなスーパースターがモンテディオ山形の選手にいてもいいんじゃないですか。

中山

他県から来た僕から見ると、「山形」はひとつのブランドとして見られているにも関わらず、「庄内の」映画村、「米沢の」天地人、と内部で分けてバラバラになっている違和感があります。そこで、みんなで応援できるサッカーと農作物の2本は、県民が自信を持って「山形の」と言えるきっかけになると思っています。今東京では「山形=おいしい」というイメージが最高に盛り上がっているのにもったいないですよね。こういう風潮は次にきっと青森に移りますから、県民が「山形の」と言うのに照れている場合ではないんです。「よそもの、若者、ばかもの」が揃っている僕が「あがすけ」[注14]になって言いますよ。僕はよそものだし、ばかだし、奥田さんもそうでしょ? 若者は大学生もいるし。大学、会社、アル・ケッチァーノがそろえばそこに力が生まれると思うんです。

稲村

モンテディオ山形はユニフォームの胸に「つや姫」を掲げていますよね。あれでみんながひとつになれるんです。選手の胸にコンビニの名前が入っていたらおもしろくないでしょ。そういったところをサポートしていきたい。『nonde』や『つやひめげんまいちゃ』はその点で非常におもしろい地域密着型の商品です。

中山

もしかしたら、僕たちは飲み物や食べ物の話がしたいのではなくて、3人がそれぞれの職業の中で、山形というまちのポテンシャルの話をしたいのかもしれませんね。

注10
庄内柿
明治18年、山形県鶴岡市(庄内地方)の鈴木重光氏が、新潟の行商人から数種の苗木を購入して植えたところ、1本だけ種なし柿が実ったことから今日まで普及されてきた種なし柿。正式名称は「平核無(ひらたねなし)」。

注11
香川選手がドルトムントから帰
ってきた
日本のサッカー選手、香川真司(MF)は、2010年7月1日、育成補償金35万ユーロ(約4,000万円)で、ドイツブンデスリーガ1部のボルシア・ドルトムントに移籍した。華々しいデビューとゴールでチームに貢献。2011年1月にはFIFAが発表した「2011年期待の若手13人」の一人に選ばれている。香川選手がドルトムントから帰ってきた時の会見は、「待ってい
た英雄の凱旋」になることが想像される。

注12
つや姫
山形県で開発し、「お米はここまで美味しくなれる。」というキャッチフレーズで、2010年10月に正式デビューした米の新品種。白く、甘く、つやがある品種特性があり、各食味解析などで化学的に高い評価を得ていて、気候温暖化にも対応する高温耐性にも注目が集まっている。なにより、おいしい。